冲方丁『マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮』ハヤカワ文庫JA、2003年。

冲方丁マルドゥック・スクランブル―The Second Combustion 燃焼』ハヤカワ文庫JA、2003年。
冲方丁マルドゥック・スクランブル―The Third Exhaust 排気』ハヤカワ文庫JA、2003年。


 第24回日本SF大賞受賞作。
 
 あらゆる物に変身可能なネズミ・ウフムック。
 電子機器を干渉し、操る美少女・バロット。
 自らの記憶を捨て去るごとに野望の会談を昇る男・シェル。
 あらゆる感情を捨て去った殺人マシーン・ボイルド。
 
 やたらとスタイリッシュな登場人物が、近未来を舞台に立ち回る。
 銃弾を銃弾で撃ち落とす激しいアクションが印象的な一巻からはじまり、物語の鍵を握る100万ドルコインを狙ってのカジノでのギャンブルが展開される二巻。それら全てが沸点に達する三巻と、緊迫感あふれる全三巻の物語。

 三冊に分けられているけど、お話は全然途切れないというか、プロットだけ提示したら、何故三冊にまでふくれあがっているのか、よーわからないだろーな。それだけ細部の書き込みに集中しているというか。

 アイデンティティや居場所といったありがちなテーマを題材にしつつも、緊迫感あふれるストーリーが物語を陳腐さから救っている。力いっぱい書きましたッという感触が読者にひしひしと伝わってくるのがとってもイイ。
 大塚英志いうところのキャラクター小説が、共有されたキャラクター(素)、プロットから成り立っているとすれば、そのパターン自体は結構限られたものになってしまうわけで、そのなかで、面白いものとそうではないものを分ける要素っていうのが、物語を面白くする筆力=技術だったり、根性入れましたっていうのがわかる心意気、濃さみたいなものなんだろうな。

 スタイリッシュで、ストーリーもよくまとまっているので、すぐにでも映画になりそうな作品。二丁拳銃美少女が目当ての人も、それだけじゃやだという人も結構楽しめるのでは。

★★★★☆。