牧野修『呪禁捜査官 訓練生ギア』祥伝社文庫、2004年(isbn:4396331452)。

 読破。魔術が科学を追い越すほどに発達し、社会に組み込まれた社会を舞台に、オカルトを取り締まる捜査官・呪禁官の訓練生が主人公の物語。設定的には、朝松健『マジカル・シティ・ナイト』(isbn:409440371x)と似ています。
 「長編ハイパー伝奇」なる肩書きが寄せられていますが、オカルト系ヤングアダルトとでも言ったほうがまだ内容が伝わりやすいかな(笑)。エロシーンもなく、健全な少年向けで、友情、意地悪な上級生との戦い、トラウマの克服、大事件に巻き込まれ出来る限りの力で解決、馬鹿にしていた老教師が実は達人、など非常にわかりやすい要素がてんこもりの一作です。
 でも、それだけというか、もうちょっとなにかを積んでおいてくれてもいいかな、と。魔術社会という、なにげに素敵なネタを扱っているわりに、その設定自体を面白さにつなげることに失敗している。
 例えば、科学と魔術の関係はあまりうまく描けていないのではないか。電話や車などの基幹技術の多くには科学が残っており、また飛行機は科学で飛ばして、魔術で安全性が確保されているなどの共同作業が行われているとのことなのに、えらく科学が馬鹿にされている。もうちょっと、ひっそりと馬鹿にされるというか、これからは落ち目であることを匂わすぐらいに留めていたほうがリアルなのではないか。
 また、最後に世界の秘密=悪役の動機が達人によって、いきなり暴かれるのも興ざめ。なんか伏線あったっけ?★★☆☆☆。

 そうそう。科学雑誌の編集長が「逆ソーカル事件」とも言うべき、罠にはまって人生を持ち崩したというエピソードは笑いました。ソーカルのお話は、やはり創作意欲をかき立てられる話ですよね。