いとうせいこう『ワールズ・エンド・ガーデン』新潮社、1991年(ISBN:4103701021)。

 先日、いとうせいこうの『解体屋外伝』(ISBN:4062065185)を読んだので、同じ設定を使っているという本作を読んでみた。『解体屋外伝』は、外伝と銘打っていても正しく本作のテーマを引き受けている。外伝でいささか唐突に思われた「世界言語(オリジナル・ランゲージ)」も、本作と合わせて読むと、その必然性がわかる。読む順番を間違えたな。
 物語は、東京近辺の町・ムスリム・トーキョーを舞台とする。地上げされ廃墟となった街。整地される前、2年間限定で、おしゃれな偽りのアラビア風の町として、若者が集う街にしたてあげられる。
 街の取り壊しまであと半年という時に、記憶喪失の男があらわれる。男は予知の能力を示し、次第に予言者として人々の信仰を集めていく。男を信仰するものも敵対するものも、その男との関係性に巻き込まれることにより、自らを狂わしていく。

 男は何者なのか?

 人間の関係性、それにより惹起される妄想。そして妄想により歪んでいく世界。
 いまならば、セカイ系と呼ばれるであろう「私」をめぐる物語の形式が、1991年の本作で見事に完成していることに驚愕する。
 ★★★★★。