島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』集英社文庫、1987年(isbn:4087492621)。

 未発表のワトソンのホームズ冒険譚と同一の事件について語る夏目漱石の「倫敦覚え書き」が交互に挿入されて叙述は進む。
 ホームズの物語はワトソンによりかなり脚色されているという設定。特にホームズが狂っていた時期だとし、その奇行っぷり及びワトソンのとりつくろいっぷりが楽しい。
 トリックや動機の整合性といった部分は軽いのだが、あまり関係のない細部の描写がいい。そも島田荘司といえば、そういう事件の本質とあまり関係のない描写にこそ魅力があるように思う。『占星術殺人事件』しかり『水晶のピラミッド』しかり。まあ、やりすぎると鼻について逆効果の時もあるけど。そういう意味で、島田の良さを素直に楽しめる良作。★★★★☆。