新井素子『素子の読書あらかると』中公文庫、2005年(isbn:4122044723)。

 書「評」ではなく、読書エッセイ。「本に対する色々な思い、その本を読んで"私"が考えた、ごく個人的な、とりとめのない、"私"の雑感、そんなものの集大成」(「はじめに」より)とのこと。
 んでもって、なんでこんな注意書きが必要になるかというと、「愛読書」と言える本に巡り会うって言うのは、「本の内容」によるからだけなく、読む読者の状態にもよって、結局なんか偶然のめぐりあわせ、つまり運命的な出会いに導かれる「面白さ」がそこにあるからだ、という話。すれていない人ならば、誰でも経験のあることのように思う。

 で、僕にとっての新井素子はまさに「運命」的な出会いというか、若き日の精神回路に、どがかっと焼き付けられた作家。高校1年の時に、「星へ行く船」シリーズを読み、そこから当時出版されていたものはあっという間に全部読んでしまった。なんか病気のようにはまってしまったのである。

 だから例えば、「ひとえに、ひとえに、すんごく、おいしそうだったんだよお、金泉堂の洋菓子!」(124頁)とかいう文章を読むと、もう焼き付けられた回路がどがかっと過剰に反応してしまって、なんかもう、それだけで楽しくなってしまう。たまに「新井素子文体」を使ってメールを書いてくる友人がいるのだけれども、やっぱりどがかっと反応してしまう。

 ゆえに、新井素子の本、というだけで、自分にとっては、もう十二分に「楽しい」わけですが、面白そうな紹介にも出会えたのが良かった。自分は保守的なうえに、あまり本屋に行かないので、誰かの紹介を受けるとかじゃないと、なかなか新しいジャンルや作者を読まないので…。

 読んだことのある本の紹介でも、幸せな思い出し方が出来た。特に『チョコレート戦争』(ISBN:4652073836)は書名も忘れていただけに、とてつもなく嬉しかった。確か小学校の図書室で読んだ本で、ストーリーとかは正直覚えていないのだが、食べたらクリームがあふれ出す金泉堂のエクレアのことだけはなぜか覚えている。うちはあまりしゃれたおやつが出る家ではなかったので、それまでエクレアなんかは食べたことがなかった。なので、未知のお菓子の描写に激しく興奮したように思う。しばらくして、ついにエクレアを食べる機会があったけど、想像ほどはやはり美味しくないのでした。

 そういえば、この間、ついに「東京麺通団」に行ってみたのですが、あれも『恐るべきさぬきうどん』(ISBN:4101059225)を読んでの想像ほどは美味くなかったな。いや、普通に美味しかったことは美味しかったのですが。
 やっぱり想像だけのほうが幸せなこともありますね。と、まとまりがつきそうもないので、ここらで。

★★★★☆。