中野敏男『大塚久雄と丸山真男 動員、主体、戦争責任』青土社、2001年(isbn:4791759338)。

 何の気なしに図書館で借りて読みましたが、かなりの傑作でした。幸せ!
 
 大塚久雄丸山真男の二人の著名「戦後啓蒙家」の戦中・戦後の思想の継続とずれを追い、「最高度自発性の生産力」(大塚)「主体性への動員」(丸山)という志向が貫かれていること。また「戦後啓蒙」なる自省的思考が「植民地」を持つ「帝国日本」という過去を隠蔽するものとして機能したことを明らかにした、第一章と第二章。
 翻って第三章では、現代でのボランティアの推進が、あらかじめ定められた公共を価値として、そこへの自発性としての主体が要求されると指摘。第一章・第二章で描かれた図式と相似のものとして存在すると批判している。

 第一章・第二章における、大塚・丸山のテクストをほじくりながら、その「動員」の思想を明らかにしていく力量がすごい。文体も蠱惑的というか、緊張をはらんだものであり、まるで良質なミステリーを読んでいるかのような引きつけられ方でした。

 出版当時は、なんかいまさら大塚と丸山の戦争責任を追及されても、と思い、全く読もうとは思いませんでしたが、失敗だったな。
 見立て、文体、知的興奮と三拍子そろった傑作であります。
 ★★★★★。