本田透『電波男』三才ブックス、2005年。電波男作者: 本田透出版社/メーカー: 三才ブックス発売日: 2005/03/12メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 343回この商品を含むブログ (411件) を見る

 しろはた主筆本田透による「オタク共産党宣言」とのこと。本書はしろはたのコラムと内容がかぶる部分も多いが、商業出版物だけあって、格段に読みやすく、内容も理解しやすくなっている。

 内容ですが、まず、現代社会とは「恋愛資本主義」社会であると喝破するところから始まる。それは、電通=メディア権力により、恋愛こそが至上価値を有すると洗脳され、消費に邁進する社会であり、またイケメン←女性←キモメンなる位階秩序により、金が流れていく社会なのだ、と。本書は、その底辺たる恋愛プロレタリア=キモメン・オタクによる反撃の狼煙・勝利宣言なのだ、と怪気炎をあげる。
 酒井順子『負け犬の遠吠え』(ISBN:4062121182)を代表として、女性の恋愛敗者は恋愛資本主義自体を憎むことなく、その行動原理に従っており、彼女らの視線にもキモメン・オタクは写らない。*1最下位の存在なのだ、と。

 顔、金の基準で、恋愛価値が定まる。そこに愛はあるのか! 作者の剛速球の叫び。


 で、この現実を革命する行為こそが、「萌え(抽象物への純粋な愛情)」だと提唱。現実の異性との恋愛には、勝者・敗者が存在し、位階秩序と集金システムが存在してしまう。抽象物=二次元=ゲーム・漫画・アニメへの「脳内恋愛」ならば、誰も傷つけ、傷つけられることなく、自足できるではないか、と。

 ざっくり主張を要約すると、こんな感じでしょうか。もちろん、400頁近い厚めの本なので、いろんな文献を引いたり、事例を紹介したりと内容は、盛り沢山ですが。

 自分はオタクではないので、引用されている漫画やエロゲーがさっぱりわからないのですが*2、それでも面白く読めました。熱い思いとそれを図式化する手腕には、感心させられるばかり。心をぐっとつかまれて、忙しいのに、一気に読んでしまいました。

 恋愛資本主義とそれにとらわれ続ける輩を攻撃しつつも、自分も恋愛幻想を捨てない。むしろ、「萌え」という形で、純化された対幻想を生きるのだという主張をしており、支配装置としての恋愛を批判するならば、その延長線上には「純化された愛」への批判もあるのではないか、何故、恋愛イデオロギーは批判しつつも、純化された愛という仮構は承認しうるのか、といった点で、論理が一貫していないようにも思いましたが、むしろそのあたりの論理的な非整合を一気に乗り越える熱い思いを受け止めるべき本でしょう。

 ともあれ、本書はそこそこの売れ行きは出るはず。恋愛資本主義の市場内部での戦略ではなく、そこから「おりる」ことをすすめているわけで、こういう立場が増えると市場そのものの存立が危うくなるわけです。これから、そういう議論が連鎖的に発生すると思います。それらの議論をおさえる一冊として、不可欠の書になるんじゃないかな。ほんとかな?

★★★★★。

*1:自分は読んだことはないが、引用箇所では、恋愛対象とはしたくない男性でもキープしておけというような、実践的なアドバイスはあるらしい。女性をターゲットにした本なのだからといわれればそれまでだが、男性の恋愛敗者の扱いはやっぱりひどいよな。

*2:読んだりゲームをしていないのに、知識だけはしろはたのおかげで大分増えましたが(笑)