古川利明『あなたが病院で「殺される」しくみ』第三書館、2002年。あなたが病院で「殺される」しくみ作者: 古川利明出版社/メーカー: 電子本ピコ第三書館販売発売日: 2002/01/25メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る

 三部構成。

 「第一部 医療過誤の現場から」では、三つのケースをとりあげ、医療過誤がどのように起きるか、どうやって隠蔽するか、責任を弱いもの(患者、看護婦)に転化する構造を描く。

 「第二部 医療過誤を生み出すシステム」では、大学病院・医局を中心とした医師業界の構造。どのように医療過誤は隠蔽され、医師は免責され、反省はなく、といった話。
 
 「第三部 医療過誤を再生産する「日本」というシステム」では、医療保険制度が生み出す腐った構造。それを護ろうとする医師会。政治への食い込みなどを描く。

 医療過誤は、システムとして、生み出され、隠蔽され、温存されている。患者は必要もない医療を施されたり、治療によってむしろ害を受けることすらある。この構造は日本の「土建国家」(と本書では使っていないけど)的な構造に依拠するもの。

 といった論旨。ケースや主張は他の医師業界批判本と比べて目新しいというわけではないように思うが、400頁近い分量の緻密な取材で細かい実例が結構わかるのが売りでしょうか。つーか、これだけの熱意で調べているのだから、もうちょっと違った結論が出ていてもいいような。なんか調べる前と調べた後で著者の結論は変わっていないのではないか、と邪推してしまう。

 違和感としては、アメリカの医療制度を透明性の確保という点から批判しているけど、アメリカの医療も相当問題を抱えている話もあるのであって、安易にモデル化できないのではないか。健康診断も含め、病院になるべく近づかないことが医療過誤を受けない手段という提案は、いくらなんでも無理がありそう。従来の日本社会の構造から新自由主義への転換の中で、いままでいくらでもあった医療過誤が表に出るようになっていったという話になっているが、新自由主義はなにげに業界の主張を最大限に汲み取る場としても機能するという側面も見逃していそう。
 羅列するとこんな感じかな。
 
 読んでいると、病院業界にむかっぱらがたってくる(頭が安直なので…)ので、ざざっと読んでしまったが、結論としては絶望的。強力な業界を持っているお医者さん軍団は権力に強い力を持っているので改革はすぐには起きそうにもないし、賢い患者になるには相当頑張らないと無理で、みんなに出来ることでもなさそう。
 絶望したっ。
 
 ★★★☆☆。