小林泰三『玩具修理者』角川ホラー文庫、1998年(isbn:4043470010)。

 第二回角川ホラー小説大賞の短編賞受賞作。田中麗奈主演の映画(asin:B00006591N
)をビデオで見ていたのでなんとなく読んでみました。玩具を不可思議な術で治してくれる男を題材とした表題作と、意識のみが永劫の時間跳躍を課される「酔歩する男」の二編。
 玩具修理者は、クトゥルフ神話がこそっとはいっている部分でニヤリとしましたが、全体としては怪談としてよくまとまっているなというぐらいの印象。映画も「もう終わり?」という物足りなさが残る作品でしたが、小説も随分異なる語り口のわりには同じ印象かな。「世にも奇妙な物語」と思えばいいのかも。
 「酔歩する男」は、意識が時間軸を制御しているとの説で、その機関を失った男が、永劫に時間を彷徨する話。己一人のみの問題で、周りとは完全に隔離した究極の孤独を描いた中編。またパラレル・ワールドの関数があるため、過去の営為が未来に必ずしも伝わらないという、何もなし得ないという悲劇。「火の鳥」のエピソードになりそうな話。時間軸をSFホラー的に揺るがすことにより、僕らの日常をも揺るがさんとする佳作。かなりひきつけられました。
 ただ角川ホラー文庫という色なのか、「世にも奇妙な物語」臭がぷんぷんするというか。日本ホラー小説ブームとやらをリアルタイムで味わってないのですが、こういうのばかりだったのかしら。誰かそろそろホラーブーム全体を俯瞰して総括していないかな。★★★☆☆。