古川日出男『アラビアの夜の種族 The Arabian Nightbreeds』角川書店、2001年(ISBN:4048733346)。


 これはウィザードリィ小説だ。
 なぜトレボーが狂王になったのか。なぜ狂王の試練場に勇者を送り込むのか。なぜ迷宮があるのか。なぜ迷宮に魔物がいるのか。ワードナは何者で、なぜ迷宮を守るのか。
 その全てがここに記されている。 
 
 
 というのは、妄想にすぎるでしょうか。
 いや、エジプトが舞台のファンタジー小説なので、本当は全然ウィザードリィとは関係がないのですが、中盤あたりを読んでいる時はずっとそう感じていました。

◆追記1 と思ったら、ウィザードリィ小説も書いているらしい(http://homepage3.nifty.com/kazano/diary0201a.html#arabian)。その時の構想とかが残っていたりするのでしょうか。『砂の王 ウィザードリィ外伝2 1』(ISBN:4893661612)、古本屋で探してみようかな。

◆追記2 「こんがり日記」9月16日(http://d.hatena.ne.jp/kongari/20040916)から、ウィザードリィ小説家・ベニー松山の推薦文(http://www.bent.co.jp/main/personal/benny/orekore/01.htm)。あー、ちゃんと明らかにされているんですね…。


 格調ある魅惑的な文体(時にわざと崩したりする仕掛けも入れつつ)の魅力に、なにげに、剣士、魔法使い、派手な攻撃魔法、ドラゴン、モンスター、白子、蠱惑的な美女の語り部など、ライトファンタジー要素が詰め込まれている。

 物語の構造も面白い。重層的な入れ子構造になっていて、ある物語を誰かが聞くという形が何重にも設定されている。そしてもっとも基層にあたる挿話すらも、民話を基にしたという設定でさらなる入れ子構造の存在を示唆している。 

 ちょっとだけ気になったのは、オリエンタリズムがばりばりのところ。いかがわしい異国情緒的な物語世界を構築するためにはある程度はしょうがないのか、それとも結局のところオリエンタリズムの再生産に寄与しているだけなのか。その両方なのか。気になりましたが、作者に自覚はあるのかな。

 文体、物語の面白さ、構造の面白さと面白い要素ががちっとそろっていて、650頁の長さにもかかわらず、引きこみ続ける力がある。傑作と言えましょう。★★★★★。