恩田陸『光の帝国』集英社文庫、2000年(isbn:4087472426)

 人間の中にまぎれ、ひっそりと暮らす、超能力者の一族・「常野」。一族の様々な人物を主人公とした、連作短編集。
 連作といっても、設定や登場人物がちょっとかぶるぐらいで、大きなストーリーにはなかなかまとまらない。つながりそうな話、例えば、ぎすぎすした心・消費社会・競争社会が作り出す、常野一族の宿敵・「草」。一族の使命。旧日本軍の超能力者実験。などなどちりばめられているのに、その話がほとんど発展しないで、超能力者の日常をめぐる話に終始する。最後の短編が男女が道に迷いながら過去を回想し、婚約を切り出すというものなのだけど、象徴的というか、まあ静かに終わりま。静かな感情の描写、背景に集中するあたりが「ネバーランド」(ISBN:4087475778)に似ているかも。
 「七瀬ふたたび」的な派手な続編を期待しないでもないけど、これはこれで完成しているんでしょうね。恩田陸味が普通に楽しめる良作。★★★★☆。