毎日新聞旧石器遺跡取材班『発掘捏造』新潮文庫、2003年(isbn:4101468230)。&毎日新聞旧石器遺跡取材班『古代史捏造』新潮文庫、2003年(isbn:4101468249)。

 ゴッドハンド=藤村氏による、日本の前期旧石器時代そのものの捏造という、世界に冠絶する大事件のルポ。
 一冊目の『発掘捏造』が事件が明らかになる過程、スクープの瞬間などについて。二冊目の『古代史捏造』はその後の展開についてまとめてある。

 毎日のスクープ後、次々と捏造が明らかになっていく。ついにはここ20年に発掘された前期・中期旧石器時代遺跡(前期と中期という時期区分自体が藤村氏の捏造した石器にもとづいており、区分自体が消滅したとも言える)が全て否定されるという事態に。
 前期・中期旧石器時代という研究ジャンルそのものが消滅・崩壊したといっても過言じゃないでしょう。一つの学問体系そのものの消滅って、そうそうあることじゃないよね。かけられていたエネルギーを考えると、呆然としてしまいます。人生を日本の旧石器時代研究に打ち込んでいた人なんかどうするんだろ。もちろん彼らは捏造を見抜けなかった責任があるし、とてもとても純然たる被害者とは言えない。専門家で、藤村氏をまったく疑っていなかった人は誰もいなかったろうし、その意味では自浄能力がかけらもなかったことは批判されるべき。
 にしても、自らが全てをかけたものが、じつは全くの嘘だったという事態にどう対面したのだろうか。20年に渡り、一つの学問系統として、金も人も動員されてきたものがすっぽりと消滅してしまうとはどういうことなんだろうか。
 読みながら何度もそのことに思いをめぐらし、慄然とした。

 さて、本自体の売りとしては、考古学のチェック機能の甘さ。関係者の見落とし。反論意見の抹殺っぷりなどへのつっこみ。逆に弱いところとしては、自然科学的測定の危険性、文部行政、地方行政、金、学閥、マスコミとの関係といったところかな。
 そもそも金がないと掘れない分野で、もともと怪しいしがらみがあるはず。そこに「日本人のルーツ」とか分かりやすい餌がばらまかれ、どういうカネの動きになっていったのか、知りたいところ。危険すぎて書けないのかなあ。そも莫大なカネがかけられた業績が泡と消えたわけで、普通なら各種の訴訟が起きそうなものなのに…。
 まだまだつっつけばいろんな話がありそうです。★★★★☆。