長山靖生『おたくの本懐 「集める」ことの叡知と冒険』ちくま文庫、2005年(原書は、『コレクターシップ』JICC出版局、1992年)。おたくの本懐―「集める」ことの叡智と冒険 (ちくま文庫)作者: 長山靖生出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2005/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 6回この商品を含むブログ (23件) を見る

 もともと92年に出されているのですが、当時のモチベーションとしては、宮崎勤事件に端を発するオタクバッシングに対抗するためとのこと。長山が考えるところのおたく的行為=コレクションを作る欲望と実践が*1、いかに文化的な偉業を成し遂げてきたのか。古今東西の面白すぎる事例をそろえて主張している。

 そもそもの目的が目的なだけに、各章ごとにかなり具体的なコレクターの薦め(企業はパトロンになれ、とか)がついているけど、それはともかく。いつもどおり、事例が爆発的に面白い。いやー、よくこれだけ面白いエピソードを集めてきているな、と大興奮。松江の不昧公のエピソード(名君として財政立て直しに奮闘→成功→放蕩)とか、コレクションに人生をかけて嫁を取らなかった男、その理由は「女子は飯を食いますけぇ」とか。
 時間もお金もかけて、収集しているのでしょうが、それだけに読み終わった後、なんか得した気持ちになります。

 文庫版で付け加えられた「補章 コレクターはどうして書き手にもなったのか」は、長山の学生時代とその濃すぎる交友関係の紹介。原著の部分はオタクバッシングへの危機にあふれているが、補章はもっと気楽なエッセイとなっている。宮崎勤の時のオタクバッシングって、本当に顔色を変えて反論している人々がたっぷりいて、当時の切実さが伺えるような。それに比べると、今の「フィギュア萌え族」は大したことないのでしょうか。

 ★★★★☆。

*1:最近の「萌え」とかのおたくとはちょっと違う存在ですね。ところで、「おたく」と「オタク」の使い分けをいまいちよくわかっていないんですがが