戸和田和久『論文の教室 レポートから卒論まで』NHKブックス、2002年。NHKブックス 論文の教室 レポートから卒論まで作者: 戸田山和久出版社/メーカー: 日本放送出版協会発売日: 2010/05/06メディア: 単行本購入: 49人 クリック: 1,147回この商品を含むブログ (159件) を見る

 師匠に薦められて購入。

 論文というか、レポートというか、ともかく論証する文章を書くための技術が、読みやすく、かつ興味を持続出来そうな形で書かれている。

 論文とは何か(問い・主張・論証)から、どう問いをたてるか、構造化(アブストラクト)、ど肉付け(パラグラフ・ライティング)、わかりやすい文章の書き方、注の付け方、などなど、結構具体的な内容なり。大学入りたての時に読んでおいても損はないかもね。逆に言えば、大学でそれなりのトレーニングを積んだ人間が目を開かされるような内容はない。つーか、それはまずい。
 とはいえ、ここに書いてあることの全部が完璧に実践出来たら、それはそれは優秀な人と言えるでしょう。知っているとできるは違うもの(とほほ)。


 また、わが師匠は後書きを絶賛。俺も銃を撃ちてぇ、と叫んでおりました。
 書き出しておこう。

 お話かわって……私の好きなデイヴィッド・フィンチャー監督の映画『ファイト・クラブ』にこんなシーンがあります。人の心の奥底に潜んでいる暴力性を解放することによって、世直しを目論むブラッド・ピット演じる怪人物が、銃を持ってコンビニを襲撃します。さえないアルバイトの後頭部に銃を突きつけて、彼の財布から抜き取った期限切れ学生証を見ながら次のように言います。「レイモンド……。お前は何になりたかったんだ。言ってみろ。お前は何になりたかった?」レイモンドが獣医だと答えると、「動物か。いいねぇ。お前がどこのだれかはわかった。これからずっと見張ってやる。いいか。六週間以内に獣医になる勉強を再開しろ。もし再開していなかったら……そのときはお前を殺す」何てコトするんだと相棒が抗議すると、ブラピはこううそぶく。「明日の朝、レイモンドが食べる朝飯はオレたちのこれまでのどんな朝飯よりうまいはずだぜ」
 映画館でこのシ−ンを見た私は思わず「や、やってみたい」と思っちゃいました。ブラピはレイモンドを「啓蒙」しようとしている。教育して生まれ変わらせようとしています。このシ−ンは、啓蒙とか教育というものが本質的には暴力であること、そして基本的には「余計なお世話」であることを、これ以上ないわかりやすさで描いているわけですね。
 本書で私は、ずいぶんと読者のみなさんを「啓蒙」しようとしました。ヘタ夫に説教もしたし。説教も啓蒙も私のサディスティックう部分をおおいに満足させてくれます。そう。私は説教が大好きなんですね。そして同時に説教の大好きな自分が嫌いなんです。というわけで、ときどき私はこのシ−ンを見て、「お前がやっていることは煎じ詰めればこういうことなんだ、お前は本当はこういうことがやりたいだけなんだろう?」と自分に言い聞かせて、精神のバランスをとっているというわけです。ま、こんなわけで、「論文書き方界のゲ−テ」の名は返上しようと思います。これからは、「論文書き方界のブラピ」と呼んでください。

 ぜひぜひ、この下世話な手段を、師匠に実行してもらいたいな。
 銃を片手に、「おまえのやりたいことはなんだ?」と。いかすー!

★★★★☆。