原田泰『奇妙な経済学を語る人びと エコノミストは信用できるか』日本経済新聞社、2003年。(isbn:4532350565)

 東谷暁エコノミストは信用できるか』(文春新書、2003年)を探しているついでに見つけたので、読んでみた。
 東谷が、エコノミスト自体を論評しているのに対し、本著は誰かを名指しで批判するものではない。世の中には奇妙なエコノミストがおり、それは経済学に基づかない、根拠のない妄言を流すものだという。そこで、中国が日本経済にとっての脅威である・アジア経済圏を成立させよ・通貨危機は市場の暴走である・デフレと構造改革少子化、といったテーマについて、「経済学知に沿った見方」を提示している。

 浅薄な知識で語れば、原田はオーソドックスな経済学の信奉者であり、デフレにはインフレ・ターゲット的な金融政策でカバーせよ、という論者。『クルーグマン教授の経済入門』と似た印象かな(流動性の罠、については全然触れていないけど)*1
 比較優位といった非常に基本的な理論から見れば中国脅威論はあてはまらない、とか、デフレは中国発という話はGDPに占める割合から見たら嘘だ、とかは同じことを言っていたような。

 ともあれ、経済学という論理を核に、実証的に論理的に話を進めるので、わかりやすい・説得力がある・読みやすい。

 とはいえ、結論にそのまま賛同は出来ない。
 マクロ的な話で言えば、信用供給を拡大して、インフレ率を上げるべしという論は、どういう経路でそれがありうるかという想像が抜けている。植物に光を当てれば必ず成長する、といった見方だ。需要側の問題という視点が抜けているような気がする。

 あと、比較優位とか、為替の調整とかいう話を敷衍していくと、為替と給料を調整すればなにかしら産業は成立するんだから、それでいいじゃん、という話になるわけで、それって個々人の目から見たら、年収300万でもラテンの気持ちで切り抜けろ(@森永卓郎)というわけで。マクロな視点ではそれでいいのかもしれないけど、そういう大激変に何が起こるのか、それでいいのかという話はあんまり想定されていない。

 自分が金も権威も権力も持っていない身分なので、どうも反発を感じてしまう。またこのような階級格差を推し進めるような構造・トレンドも経済学的な論理のみではなく、政治的社会的な力に左右されるところが大きいわけで、こうなにか定まったような物言いには、むむむと感じるというか。
 貧乏人のひがみなのか、人文科学と社会科学の温度差なのか。まあ、いいです。
 
 ともあれ、最初に言ったように、わかりやすく説得的な本なので、おすすめ。

★★★★☆。

*1:クルーグマンの訳者である山形浩生が書評していた。ここを参照(http://cruel.org/asahireview/asahireviews07.html)。