アンドレ・シフレン(勝貴子訳)『理想なき出版』柏書房、2002年。理想なき出版作者: アンドレシフレン,Andr´e Schiffrin,勝貴子出版社/メーカー: 柏書房発売日: 2002/05/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る

◆目次
序章
第1章 少数者の、そして万人のための良書
第2章 パンセオンの第二世代
第3章 独立採算
第4章 市場という検閲
第5章 自主規制と新たな可能性
第6章 ザ・ニュープレス

 佐野眞一『誰が本を殺すのか』以来、図書館の出版関係棚をのぞきに行くことが多い。*1なんとなく見つけたので、アメリカの出版事情がわかるかな、と思って借りてみました。

 業界全体を客観的に批評するのではなく、親子二代にわたり出版業界で飯を食ってきた著者の経歴から、寡占・独占されていく出版業界の姿を描いている。
 日本の出版業界を考える上でも面白そうな部分は、第三・四章の巨大資本による出版社の買収・合併劇。「良書」の切り捨てと大衆化といった部分。

 ただ著者は、「良書」の存在と価値を自明視する立場を貫き通している。けど、
 大資本による出版は、本のヴァラエティを犠牲にするのみならず営業的にも失敗している。旧来の出版でもちゃんと「良書」を出していたところは食えていた。
 との主張は、ほんまいかいなと眉唾で読んでしまう。
 
 著者は現在「ザ・ニュープレス」という独立系出版社を営んでいる。ここは助成金を獲得することによって、「良書」の出版をなしえているとの話。
 日本の学術出版も、政府の出版助成と図書館の購入でどうにかなっているわけだから、あんまり状況はかわらないかも。
 朝まで生テレビプロ野球問題の回で、田原総一郎が「文化って、結局、公共事業でしょ。人の金で生きているんだよ」と罵っていたとおりの構図。いや、それがいいか悪いかはもうちょい考えないといけないところだけど。

 問題はそこまでして本を出す価値があるのか(ネットなど別媒体の可能性)という問題であり、著作のクオリティや価値ある著作の選別・保証を誰が、どのように行いうるかという問題かな、と。

 近年のインターネットをはじめとする情報の氾濫がこの問題をはらんでいることは間違いないけれども、日本の出版社(たとえば、岩波書店東京大学出版会)が現在それを担っているかと言われるとそれもちょっと疑問があるわけで。

 そのへんがものたりませんでした。
 
 ★★★☆☆。

*1:図書館関係者のつながりなのか、司書さんの問題意識なのか、一般的な売れ行きや本の出来とは関係なく出版関係棚は充実している。しかも、NDCの若い番号に位置づけられているので、図書館の中でも棚がいい位置にあることが多い。