阿部和重『無情の世界』新潮文庫、2003年。無情の世界 (新潮文庫)作者: 阿部和重出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/02/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 27回この商品を含むブログ (76件) を見る

 「トライアングルズ」「無情の世界」「鏖(みなごろし)」の三編を収録。1999年の野間文芸新人賞受賞作。

 狂気にとりつかれた人間ばかりが出てくる。その間の抜け方が笑えたり、恐ろしかったり。
 ネットやら「アメリカ」やら覚醒剤やら盗撮やら、といった「現代的」なツールもごろごろと出てくるのだけど、現代社会に視線をあわせると言うよりも、狂気だったりすれ違いだったり偶然だったりから生み出される物語を描くぜ、というお人なのかしらん。

 「文学賞メッタ切り」で、「渋谷系」と豊崎由美がのたまわっていたので、なんかなぁと思っていたのですけれども、かなり面白いではないですか。他の著作も読んでみたくなりました、よ。

 背表紙の解説、あまりにもうそつき過ぎ。「新世代携帯電話と高速ネット」とか出てこないし。他の本はこういう話なの?それともこういう売り方をしただけ? もし後者だとしたら、そのせいで少なくとも僕という読者を遠ざけていたのですけれども。

 新世代携帯電話と高速ネットから妄想が次々と吐き出され、"リアリティ"がヤバいほど希薄になった現代ニッポン。昨日は、快楽殺人の犠牲者が夜影に転がり、ガキたちが覚醒剤を数。今日も、大バカ者が超レアなブランド腕時計を万引きし、ストーキングを純愛と誤解する。この国を覆い尽くす狂気を抜群のユーモアとドライブ感で描破し、野間文芸新人賞に輝いた傑作短編集。


★★★★☆。