日中韓3国共通歴史教材委員会『未来をひらく歴史 東アジア3国の近現代史』高文研、2005年。未来をひらく歴史―日本・中国・韓国=共同編集 東アジア3国の近現代史作者: 日中韓3国共通歴史教材委員会出版社/メーカー: 高文研発売日: 2005/06メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (24件) を見る

 日中韓の歴史家・教員etcが集まって作った歴史教科書。一応、副読本という位置付けらしい。本当に出来るんかいと疑っていたので、まず出版されたことに驚きと拍手。

◆目次
序章  開港以前の三国
第一章 開港と近代化
第二章 日本帝国主義の膨張と中韓両国の抵抗
第三章 侵略戦争と民衆の被害
第四章 第二次大戦後の東アジア
第五章 21世紀の東アジアの平和のための課題

 以下、感想。

・当然ながら、比較史の視野がばりばりと盛りこまれているが、これが意外と面白いものに。特に序章・第一章の部分。三国の近世および近代化の過程をこれだけちゃんと並べて比較している教科書はないのではないか。
・生活史の重視。暦やメディアなど90年代以降に盛んに取り上げられたトピックを教科書に生かそうという姿勢がある。題材の選定なども含め、まだまだ洗練すべき課題は多そうだが、好感を持つ。


・比較史の視点は第二章以降急速に薄れる。この三国が否応なく関係し合う歴史が展開されるから、と言ってしまえばそのとおりなのだけど。
・民衆という言葉が乱舞するが、支配階級以外の人間=民衆という用法なのか。各国の意見もあるかもしれないのだが、ここでの民衆って何よ、という聞くのも恥ずかしい、身も蓋もない疑問を叙述。
・東アジア三国というまとまりの根拠なし。儒教圏ならベトナムも入ってくるだろうし、朝貢貿易圏ならもっと広がってしまう。そもなぜ東アジア三国という声明がどっかに書いてあるかと思いきや、見つけられず。三国の外部は欧米の列強ぐらいしか登場せず。あと、第三章にいきなり「東南アジア占領地民衆の抵抗」なる節が出てきてびっくり。なぜいきなり? もうちょい広い世界の話とこの地域の話がリンクするような形を考えても良かったのでは。分量の問題もあるだろうけど。またラストにおいて、教科書の目的=東アジア共同体成立に向けての理解を促すような話になるが、同様に理解出来ず。
・日本と朝鮮、日本と中国という加害−被害関係は頻出するも、朝鮮−中国の関係は描けず。朝鮮戦争で項目がたっていないのは…。まあ、今回は無理だったのでしょうけど。
・各国の執筆者が相手の叙述にどれだけちゃちゃを入れられたのか、疑問。なかなか難しいものがあったのかと思う。そういう関係もあってか、項目の並びも年代順になっていないものがある。韓国併合と台湾統治とか。


 全体的な感想。
 思った以上に面白かった。出ただけでもすごいのに…。とはいえ、正直、ぐちゃぐちゃな部分は多いし、時代が現代に近づくにつれ、その度合いは深まると思われ。
 というわけで、今後の進展に期待。その意味で、何度もやったという話し合いの経過を明らかにする本が出たらいいな、と思う。出来れば、お互い怒鳴り合っているようなやつを期待。
 三カ国語で出ているらしいので、自分が読める中国語版ぐらいはざっと目を通そうかと思う次第なり。以上。


 おまけ。
 どうでもういいけど、各国の制作委員会の名前。日本・日中韓。中国・中日韓。韓国・韓中日。それぞれ自国が先頭に来るのは当然としても、その後の順番が対象ではないのが、三者の関係をうっすらと教えてくれる感じ。